大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 昭和60年(行ウ)14号 判決

札幌市西区二十四軒三条四丁目四番二五号

原告

東光産業株式会社

右代表者代表取締役

石山孝一

札幌市中央区北七条西二五丁目

被告

札幌西税務署長

山崎市司

右指定代理人部付検事

小川賢一

同訟務官

和田寛治

同大蔵事務官

斎藤昭

同大蔵事務官

佐藤隆樹

同大蔵事務官

溝田幸一

主文

一  被告が、原告の昭和五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度の法人税について、同年一一月二一日付けでした過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(同五八年七月一一日付けでした過少申告加算税及び重加算税の再賦課決定及び同六〇年六月二四日付け審査裁決により減額された後の部分。)のうち二四二万八二〇〇円を超える部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告が、原告の昭和五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五五年三月期」という。)の法人税について、同年一一月二一日付けでした更正(被告が同五八年7月一一日付けでした再更生により減額された後の部分。以下「本件更正」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(同日付けでした過少申告加算税及び重加算税の再賦課決定及び同六〇年六月二四日付け審査裁決により減額された後の部分。以下「本件賦課決定」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  課税処分等の経緯は、以下のとおりである。

(一) 原告は、不動産賃貸・売買及び地質調査等を目的とする株式会社で、昭和五五年三月末日現在、資本金一〇〇〇万円の法人税法(以下「法」という。)二条一〇号の同族会社に当たるものであるが、昭和五五年三月期の法人税確定申告を青色以外の申告書で、法定申告期限(法七四条)である昭和五五年五月三一日に、別表1の番号1の欄記載のとおり、欠損金額五二六万九九〇一円として被告に提出した。

(二) 被告は、原告の昭和五五年三月期の法人税について、別表1の番号2及び6の欄記載のとおり、更正及び再更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定及び再賦課決定をした。

(三) 原告は、被告のした右各処分について、別表1の番号3、4、5、7の欄記載のとおり、異議申立て、同決定、審査請求及び同裁決の不服申立て手続きを経由している。

2  しかし、昭和五五年三月期の原告の所得金額は、別表記載の申告額のとおりであり、本件更正は不当な推計に基づき所得を認定した違法があり、それに附帯してされた本件賦課決定も違法である。

3  よつて、原告は、本件更正及び本件賦課決定の取消を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1(一)ないし(三)の事実は、認める。

同2は争う。

三  被告の抗弁

1  原告の昭和五五年三月期の事業所得

(一) 被告は、原告から提出された確定申告書に添付されていた貸借対照表をもとに、原告の設立第一期である昭和五〇年七月二四日から同五一年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五一年三月期」という。)以降の貸借対照表を比較検討し、また、原告の取引銀行及び原告所有建物の貸借人に対して反面調査を行い、さらに、不動産鑑定士作成の評価書等を収集するなどして把握した金額及び評価額等をふまえ、財産増減法、即ち、原告の当期の期首及び期末の純資産(資産の額マイナス負債の額)の額の増減を調査し、これに資本の増減があつた場合にはその額を加算ないし減算して所得金額を求める方法により、原告の昭和五五年三月期における所得金額を推計した。

(二) 推計の必要性は、以下のとおりである。

(1) 被告は、原告から提出された確定申告書に記載されている所得金額等を確認するため、同確定申告書添付の損益計算書及び貸借対照表を作成する基礎となつた帳簿類及び証拠書類等を調査する必要があると認め、被告の調査官清野敏嗣(以下「清野係官」という。)は、原告の昭和五五年三月期分の法人税について調査を試みた。

(2) 清野係官は、昭和五五年九月二〇日、原告の事務所に赴き、同所にいた原告代表者代表取締役石山孝一(以下「石山孝一」という。)に身分証明書を提示し、申告した所得金額の計算内容を確認するため調査に伺つた旨を告げたうえ、昭和五五年三月期における損益計算書及び貸借対照表を作成する基礎となつた帳簿類及び証拠書類(契約書、請求書及び領収書等)を提出するよう要請した。

これに対し、石山孝一は、「帳簿類は存在していないので出せない。証拠書類もほとんど保存していない。決算書類は、自分の記憶のみに基づいて作成したものである。」旨申し述べるだけで、清野係官の右提出要請に応じようとはしなかつた。

しかしながら、清野係官は、原告の昭和五五年三月期の決算書類を石山孝一がその記憶のみに基づいて作成することは不可能であると判断し、同人に対し、その旨を告げたうえ、更に右提出方を要請したが、同人は、「決算書類は、自分の記憶のみに基づいて作成したものであり、帳簿類等は存在しない。」旨を繰り返し述べるだけで、右提出要請に応じようとはしなかつたため、清野係官は、やむなく、原告の事務所を辞去した。

(3) 清野係官は、その後も引き続き、昭和五五年一〇月初めころまでの間、電話で、石山孝一に対し、再三にわたり、帳簿類及び証拠書類の提出方を要請したが、同人は、依然として、「決算書類は、自分の記憶のみに基づいて作成したもので、帳簿等は存在しない。」旨を繰り返し述べるだけで、被告の帳簿類等の提出要請に応じようとはせず、税務調査に非協力的な態度に終始した。

(4) 以上に述べたとおり、被告において、原告の昭和五五年三月期分の所得金額を取引実績額(総収入金額、必要経費につき実額)によつて把握することができなかつたため、やむを得ず、法一三一条に基づく推計課税を行つたものであり、推計課税の必要性があつたことは明らかである。

(三) 推計による原告の昭和五五年三月期における所得の金額は、五四八〇万三三四五円であり、その勘定科目ごとにおける計算の根拠は以下のとおりである。

(1) 繰越利益(損失)金の額 △四〇二万九八六五円

原告が被告に提出した確定申告書に添付されている貸借対照表は、会計学上の等式(資産=負債+資本)にしたがつていない独自の方式により作成されたものであり、そのままの状態では採用できなかつた。

そこで、被告は、調査の上、財産増減法により、原告の設立第一期である昭和五一年三月期から昭和五五年三月期までの事業年度における繰越利益(損失)金を順次補正したが、其の内容は、別表2の各事業年度ごとの各調査額欄記載のとおりであり、原告の昭和五五年三月期における繰越損失金は、△四〇二万九八六五円である。

(2) 普通預金勘定の金額 五七万七三二一円

(3) 定期預金勘定の金額 三六二万九八八八円

(4) 建物勘定の金額 八二一三万九二八七円

原告が被告に提出した確定申告書に添付されていた定率法による減価償却資産の償却額の計算に関する明細書、貸借対照表及び損益計算書等によれば、原告には昭和五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五四年三月期」という。)における一〇〇万円以外は、建物に対する資本的支出及び除却等の事実が認められないにもかかわらず、昭和五一年三月期を除く設立以後の各事業年度の建物勘定の金額と、原告が減価償却費として損金経理した金額との間に相関性が認められなかつた。

そこで、被告は、原告が、確定した決算において減価償却費として計上している金額を限度として、昭和五一年四月一日から同五二年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五二年三月期」という。)にまでさかのぼつて、貸借対照表に計上すべき建物勘定の金額を算定したが、その内容は、別表3記載のとおりであり、原告の昭和五五年三月期における建物勘定の金額は、合計八二一三万九二八七円である。

(5) 決算外の土地及び建物の金額 五八九四万円

原告は、被告が別表4の昭和五五年三月期分欄に記載したとおり、土地及び建物を、合計一億一三二三万円で、札幌地方裁判所から競落によつて取得しているから、その全額を昭和五五年三月期の貸借対照表の資産の部に計上すべきところ、そのうちの六〇〇〇万円について貸借対照表に資産として計上したにとどまり、残りの五三二三万円については貸借対照表に計上しなかつたか、右計上もれ分の金額五三二三万円は、昭和五五年三月末の貸借対照表上の資産として計上すべきものである。

なお、原告は、前期において、次表に記載したとおり、不動産を取得していながら、これを前期の貸借対照表に資産として計上していなかつたが、右不動産の取得金額五七一万円も、昭和五五年三月期末の貸借対照表上の資産として計上すべきものである。

〈省略〉

したがつて、原告の昭和五五年三月期における決算外の土地及び建物の金額は、右の金額を合計した額、すなわち、五八九四万円となる。

(6) 短期借入金勘定の金額 一〇七二万円

(7) 預り敷金 一八〇万円

原告は、昭和五四年七月三一日に、札幌市中央区北七条西二七丁目二二番地二ほか二筆の土地及び当該土地の上に所在する五階建事務所用建物を、札幌地方裁判所の競売により取得したことに伴い、当該土地及び建物の前所有者で、原告が取得する以前から当該建物に入居しており、引き続き入居することになつた浅倉工業株式会社(以下「浅倉工業」という。)から、同年九月に敷金として一八〇万円を受領しているから、同金額は、昭和五五年三月期末の貸借対照表の負債の部に預り敷金として計上すべきである。

(8) 以上の(1)から(7)の勘定科目以外の勘定科目については、別表2記載のとおり、原告の昭和五五年三月期の確定申告における貸借対照表に記載された金額と同一である。

(四) 推計の合理性は、以下の理由から明らかである。

(1) 被告が本件において、原告の所得金額を算出するために採用した推計方法は、前記(一)で述べたとおり、原告が被告に提出した確定申告書に添付されていた貸借対照表をもとに、原告の当期の期首及び期末の純資産の額の増減を調査し、資本の増減の額を加・減算して所得金額を算出したものであるところ、原告の増減状況は、次の方法に基づいて把握したものである。

(イ) 繰越利益金の金額は、別表2記載のとおり、原告の設立事業年度である昭和五一年三月期にまでさかのぼり、以後順次各事業年度の繰越利益金額を再計算した。

(ロ) 普通預金勘定の金額は、原告の取引銀行である太陽神戸銀行札幌支店に対する反面調査により取得した同銀行の普通預金月中取引記録表により把握した。

(ハ) 定期預金勘定の金額は、同銀行に対する反面調査により取得した同銀行の定期預金月中取引記録表により把握した。

(ニ) 建物勘定の金額は、建物の取得時期にさかのぼり、建物の取得価格から、確定した決算に計上されている減価償却費を限度として、正規の減価償却費を控除して再計算した。

(ホ) 計算外の土地及び建物勘定の金額は、札幌地方裁判所の競売関係書類により把握した取得価額を基礎として計算した。

(ヘ) 短期借入金勘定の金額は、貸主である株式会社ロツク建設研究所(以下「ロツク建設」という。)に対する法人税調査により把握した金額に基づき計算した。

(ト) 預り敷金勘定の金額は、貸借人である浅倉工業に対する反面調査により把握した。

(2) 右の計算方法は、被告が原告の財産の増減状況を把握するに当たり、銀行・裁判所等の信用性ある機関により作成された客観的な資料に依拠し、また、原告の計算の誤りを会計学上の等式に従つて修正したもので、そこには被告のし意が介在する余地はないのであるから、推計の基礎事実は正確に把握されているものであり、帳簿書類等の存在しない本件にあつては、真実の所得に近似した数字が算出されるような客観性を備えているものといえる。

2  原告の昭和五五年三月期の課税土地譲渡利益金額

(一) 原告は、別表5記載の土地及び建物(以下「本件不動産」という。)を同表取得年月日欄記載の日に、同表取得金額欄記載の金額で、札幌地方裁判所の競売によつて取得した後、同表売却年月日欄記載の日に、同表売却金額欄記載の金額で、同表売却先欄記載の相手方に売却しているが、原告が本件不動産のうちの各土地部分を取得したのは、いずれも昭和四四年一月以後である。したがつて、その譲渡利益金額の合計額の二〇パーセントに当たる金額が法人税の額に加算されることになる(租税特別措置法(昭和五五年法律第九号による改正前のもの。以下「措置法」という。)六三条一項一号)。

被告は、右加算金額の基礎となる課税土地譲渡利益金額を算出する前提として、本件不動産のうちの各土地部分及び各建物部分の取得金額及び売却金額を推計の方法により確定した。

(二) 原告には、土地あるいは建物ごとの各金額を記入した帳簿・書類等が作成されておらず、他に右各土地部分及び建物部分の各金額を実額によつて把握しうる資料もなかつたため、被告は本件不動産のうちの各土地部分及び各建物部分の各金額(評価額。以下同じ。)を推計により算出せざるをえなかつた。

(三) 被告は、右各土地部分の金額を推計により算出するに当たり、正確を期するため、最も参考となる右各土地部分の近傍類似の土地(別表6の1の参考欄記載の基準地)の地価公示価格を基準として、札幌地方裁判所が本件不動産を競売するに際して依頼した不動産鑑定士による本件不動産の鑑定時点及び鑑定評価額をもとに、原告が本件不動産を取得した時点及び譲渡した時点の各時価の変動率を時点修正して各土地部分の各金額を求め、また、各建物部分については、再調達原価をもとに未償却残高を求め、評価時点におけるそれぞれの時価を算定し(なお、本件不動産のうちの各土地部分及び建物部分の評価額の取得時点及び譲渡時点における時点修正率の評定は、別表6の2ないし同6の5のとおりであり、右各時点における各土地部分及び各建物部分の時価による価額構成は、別表7の各時点における土地建物の価額構成欄のとおりである。)、右各土地部分の取得時点及び譲渡時点における時価評価額が、各建物部分の各時点における時価評価額を含めた合計金額に占める割合を求め、これに、原告が本件不動産を取得し、また、譲渡した際の実際の金額を乗じることによつて、右実際の金額の中に本件土地部分の価格が占める割合を求めた。その計算式及び取得価格並びに譲渡価格は、別表7の〈1〉及び〈2〉に記載したとおりである。

本件不動産のうちの各土地部分の課税土地譲渡利益金額は、各譲渡価格から各取得価格の額及び法定の負債利子の額と法定の販売費及び一般管理費の額を控除することによつて算出される。そして、右の算出方法によれば、本件不動産のうちの各土地部分の課税土地譲渡利益金額は、別表7の〈3〉及び〈4〉の欄に記載したとおり、それぞれ、二二八万六〇六一円及び四八四万五七七〇円となる。したがつて、その合計金額七一三万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満の端数は切り捨て)に対する二〇パーセントの金額である一四二万六二〇〇円が法人税額に加算されることとなるのである。

課税土地譲渡利益金額を算出するに当たり、控除しうる経費は、法定の負債利子の額と当該土地譲渡のために要した販売費及び一般管理費の額に限定されている(概算法。措置法六三条二項、同法施行令三八条の四第六項)が、法人が経費の額につき、当該事業年度においてした土地の譲渡の全てについて支出するこれらの経費の額のうち当該土地の譲渡にかかる部分の金額を合理的に計算し(第一要件)、かつ、これを法人税申告書に記載した場合(第二要件)には、右の金額(実績値)を経費として控除することが認められている(実額配賦法。同法施行令三八条の四第八項)。しかしながら、原告は、昭和五五年三月期の確定申告書に、原告が主張している実績値を全く記載していないから、実額経費を主張することはできない。

3  課税留保所得金額

前記のように、原告の昭和五五年三月期における所得金額は、五四八〇万三三四五円であるから、その金額が原告の留保所得金額となり、これに法六七条の規定を適用して課税留保金額を計算すると、同条一項に定める留保金額は、同条二項に定めるところにより、留保した所得金額五四八〇万三三四五円から、法人税額二二五〇万七四〇〇円及び道府県民税額等四六五万九〇三一円を控除した二七六三万六九一四円となり、さらに、同条三項により、留保控除額、すなわち、当該事業年度の所得等の金額の一〇〇分の三五に相当する金額(五四八〇万三三四五円×三五パーセント=一九一八万一一七〇円)を控除した八四五万五〇〇〇円となる。

4  更正の適法性

(一) 原告が昭和五五年三月期において納付すべき法人税額は、以下のとおりとなる。

(1) 所得金額に対する税額 二一〇八万一二〇〇円

昭和五五年三月期の原告の所得金額である五四八〇万三〇〇〇円に対する税額は、法六六条二項(昭和五六年法律第一二号による改正前のもの。)の規定により、右所得金額のうちの七〇〇万円については一〇〇分の二八の税率を、残額の四七八〇万三〇〇〇円については法六六条一項(右同)の規定により、一〇〇分の四〇の税率を、それぞれ乗じて計算すると、合計二一〇八万一二〇〇円となる。

(2) 課税土地譲渡利益金額に対する税額 一四二万六二〇〇円

原告の昭和五五年三月期に係る課税土地譲渡利益金である七一三万一〇〇〇円に対する税額は、措置法六三条の規定により、同金額に一〇〇分の二〇の割合を乗じて計算すると、一四二万六二〇〇円となる。

(3) 課税留保金額に対する税額 八四万五五〇〇円

原告の昭和五五年三月期に係る課税留保金額である八四五万五〇〇〇円に対する税額は、法六七条一項の規定により、同金額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算すると、八四万五五〇〇円となる。

(4) 以上の(1)ないし(3)の金額を合計すると、原告の昭和五五年三月期に納付すべき法人税額は、二三三五万二九〇〇円となる。

(二) 以上の結果、原告の昭和五五年三月期の所得金額、課税土地譲渡利益金額、課税留保金額及び納付すべき税額は、別表一の番号7審査裁決欄下段の括弧書きのとおり、国税不服審判所が裁決した金額と一致し、昭和五五年三月期に係る納付すべき税額は、被告の再更正処分に係る納付すべき税額を超えるから、本件更正は適法である。

5  加算税の賦課決定の適法性

(一) 重加算税の計算の基礎となる金額

(1) 原告は、昭和五五年三月期の所得金額のうち、その発生基因が明確な不動産譲渡利益金額一五八九万円及び家賃収入のうち、八九万四〇〇〇円(別表5の差引譲渡益の合計欄及び別表五の付表)の、合計一六七八万四〇〇〇円を損益計算書に計上しなかつたが、この行為は、国税通則法(以下「通則法」という。)六八条に規定する「隠ぺい」に該当するから、右金額を重加算税の計算の基礎とすべきである。

(2) また、課税土地譲渡利益金額七一三万一〇〇〇円(別表1の(ロ)欄番号7欄の括弧書き)は、右の不動産譲渡利益金額のうちの土地の譲渡に係るものであるから、前記(1)と同様の理由により、その全額を重加算税の計算の基礎とすべきである。

(3) そして、課税留保金額のうち、計上もれの右不動産譲渡利益金額及び家賃収入のうちの八九万四〇〇〇円も、前記同様の理由により、重加算税の計算の基礎とすべきである。

(二) 過少申告加算税の計算の基礎となる金額

原告は、右(一)で述べた昭和五五年三月期の所得金額及び課税留保金額からそれぞれ重加算税対象部分を差し引いた残額を確定申告書の所得金額に計上していなかつたが、この行為には、通則法六五条二項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。)に規定する正当な理由があるとは認められないから、当該残額は過少申告加算税の基礎とすべきであると認めたものである。

(三) 以上述べた重加算税及び過少申告加算税の基礎となる金額に、通則法六六条一項及び同法六五条二項に規定する率を乗じると、重加算税は、二五二万三〇〇〇円となり、また、過少申告加算税は、六〇万六〇〇〇円となり、合計三一二万九〇〇〇円となる。

四  抗弁に対する原告の認否

抗弁1(一)の事実は不知。同(二)(1)の事実は不知であり、同(2)ないし(4)の事実は否認する。同(三)の冒頭の事実は否認し、同(1)ないし(4)の事実は否認し、同(5)の事実のうち、原告が被告主張の土地・建物を貸借対照表に計上していなかつたことは認め、その余は否認し、同(6)の事実を否認し、同(7)及び(8)の事実は認める。同(四)(1)は不知であり、同(2)は争う。

同2(一)前段のうち前文の事実は認め、後文は争い、同後段の事実は不知であり、同(二)の事実のうち、原告において土地あるいは建物ごとの各金額を記入した帳簿・書類が作成されていなかつたことは認めるが、その余の事実は否認し、同(三)の事実は否認する。

同3及び4は争う。

同5の事実は否認する。

五  抗弁に対する原告の主張

1  被告は、原告の昭和五五年三月期の事業所得の金額の推計に当たり、以下の負債を計上すべきであるのにいずれも計上していないから、被告による推計は到底合理性を備えているとはいえない。

(一) 原告が株式会社太陽神戸銀行(以下「太陽神戸銀行」という。)から昭和五四年一〇月一八日借り入れた五〇〇〇万円の借入金

原告は、別表8の番号3の不動産の取得価格七五二〇万円のうち、五〇〇〇万円は太陽神戸銀行からの右借入金をもつてその支払いに充てたものであり、右五〇〇〇万円は、昭和五五年三月期の貸借対照表の負債の部の長期借入金科目に計上すべきである。

(二) 原告が太陽神戸銀行から昭和五四年七月二日借り入れた三〇〇〇万円の借入金

原告は、別表8の番号1及び2の不動産の取得価格合計二〇九〇万円を、太陽神戸銀行からの右借入金をもつてその支払いに充てたものであり、右三〇〇〇万円は、昭和五五年三月期の貸借対照表の負債の部の長期借入金科目に計上すべきである。

(三) 原告が昭和五四年七月三一日に取得した別表8の番号3記載の土地・建物の代金支払いの際に石山孝一ら借入れた二五二〇万円の借入金

原告は、右土地及び建物の取得価格七五二〇万円のうち、五〇〇〇万円を太陽神戸銀行から、不足分の二五二〇万円を石山孝一名義の通知預金二七〇〇万八八七六円から借り入れた金額をもってその支払いに充てたものであり、右二五二〇万円は昭和五五年三月期の貸借対照表の負債の部の長期借入金科目に計上すべきである。

(四) 原告が昭和五五年二月二六日に取得した別表8の番号4記載の建物の代金支払いの際に石山孝一から借り入れた八八一万円の借入金

原告は、右建物の取得価格八八一万円を、石山孝一が菊池善策に売却した不動産の売買代金三二〇〇万円のうちから支払いに充てたものであり、右八八一万円は昭和五五年三月期の貸借対照表の負債の部の長期借入金科目に計上すべきである。

(五) 原告が昭和五五年三月二六日に取得した別表8の番号5記載の土地の代金支払いの際に石山孝一から借り入れた八三二万円の借入金

原告は、右土地の取得価格八三二万円を、石山孝一から同人名義の日本長期信用銀行札幌支店のワリチョー満期受取金三七一万円のうちから三五五万二三二五円及び石山孝一が菊池善策に売却した不動産の売買代金三二〇〇万円のうちからその支払いに充てたものであり、右八三二万円は昭和五五年三月期の貸借対照表の負債の部の長期借入金科目に計上すべきである。

2  原告は、別表8の番号3の宅地・建物について、賃借人である芳村商事株式会社から、裁判上一五〇〇万円の請求を受け、この紛争は解決していないから、右一五〇〇万円は右宅地・建物に係る負債として、右宅地・建物の価額から減額すべきものである。

3  被告の主張する計上もれ家賃額について

原告の家賃収入額は、確定申告書添付の損益計算書に記載したとおり、九八二万二〇〇〇円にすぎない。被告は、原告には昭和五五年三月期において、一〇七一万六〇〇〇円の家賃収入があつたと主張するが、原告は、賃借人から九八二万二〇〇〇円以上の入金を受けていない。

第三当事者の提出、採用した証拠

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(一)ないし(三)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、被告の抗弁について判断する。

1  原告の昭和五五年三月期の事業所得

(一)  被告は、原告から提出された確定申告書に添付されていた貸借対照表をもとに、原告の設立第一期である昭和五一年三月期以降の貸借対照表を比較検討し、また、原告の取引銀行及び原告所有建物の賃借人に対して反面調査を行い、さらに、不動産鑑定士作成の評価書等を収集するなどして把握した金額及び評価額等をふまえ、財産増減法、即ち、原告の当期の期首及び期末の純資産(資産の額マイナス負債の額)の額の増減を調査し、これに資本の増減があつた場合にはその額を加算ないし減算して所得金額を求める方法により、原告の昭和五五年三月期における所得金額を推計した。

(二)  推計の必要性について検討する。

(1) 証人清野敏嗣の証言、原告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができ、原告本人尋問の結果のうち、以下の認定に反する部分は採用できない。

(イ) 被告は、原告から提出された確定申告書に記載されている所得金額等を確認するため、同確定申告書添付の損益計算書及び貸借対照表を作成する基礎となつた帳簿類及び証拠書類等を調査する必要があると認め、被告調査官の清野係官は、原告の昭和五五年三月期分の法人税について調査を試みた。

(ロ) 清野係官は、昭和五五年九月二〇日ごろ、原告の事務所に赴き、同所にいた原告代表者の石山孝一に身分証明書を提示し、法人税調査に伺つた旨を告げたうえ、昭和五五年三月期における申告書に添付の損益計算書及び貸借対照表を作成する基礎となつた帳簿類及び証拠書類(契約書、請求書及び領収書等)を提出するよう要請したが、石山孝一は、帳簿類は作つていないし、証拠書類もほとんど保存していない、決算書類は、自分の記憶のみに基づいて作成したものであるとの趣旨を申し述べるだけで、清野係官の再三にわたる右提出要請に応じようとはしなかつたため、やむなく清野係官は右事務所を辞去した。

(ハ) 清野係官は、その後昭和五五年一〇月初めころまでの間、電話で、石山孝一に対し、再三にわたり、帳簿類及び証拠書類の提出方を要請したが、同人は、一度札幌西税務署を訪れ、清野係官らと面接したが、その際も同係官らに対し、「そんなに儲かつてはいない。帳簿は整理している。」旨の話しはしたものの、調査に非協力的な態度に終始し、帳簿書類はついに提出しなかつた。

(ニ) 右のような経緯で原告取引実績額を把握することが不可能であつたため、被告は、法一三一条に基づく推計課税によることとした。

(2) 以上の事実によれば、被告は、原告の協力を求めて昭和五五年三月期分の所得金額を取引実績額(総収入金額、必要経費につき実額)によつて把握することを試みたが、原告において非協力的な態度に終始ししたため、これが不可能であつたことからやむをえず、法一三一条に基づく推計課税を行うこととなつたものであり、推計課税の必要性があつたことは明らかである。

(三)  そこで、被告主張の昭和五五年三月期の各勘定科目の計算の根拠について検討すると、成立に争いのない乙第一、第七号証、第一七号証の一、二、第一八号証(乙第一号証、第一七号証の一については、原本の存在を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 繰越利益(損失)金の額

財産増減法により、原告の設立第一期である昭和五一年三月期から昭和五五年三月期までの事業年度における繰越利益(損失)金を順次補正すると、その内容は、別表2の各事業年度ごとの各調査額欄記載のとおりであり、原告の昭和五五年三月期における繰越損失金は、△四〇二万九八六五円となる。

(2) 普通預金勘定の金額

原告は、昭和五五年三月期の確定申告において、貸借対照表の普通預金勘定に太陽神戸銀行札幌支店に対する普通預金一三六万二五六七円を計上しているが、昭和五五年三月三一日現在における原告の同銀行に対する預金残高は、五七万七三二一円である。

(3) 定期預金勘定の金額

原告は、昭和五五年三月期の確定申告において、貸借対照表の定期預金勘定に太陽神戸銀行札幌支店に対する定期預金三七六万五六一円を計上しているが、原告の昭和五五年三月三一日現在における原告の同銀行に対する定期預金残高は、三六二万九八八八円である。

(4) 建物勘定の金額

昭和五四年三月期における一〇〇万円以外は、建物に対する資本的支出及び除却等の事実がないにもかかわらず、昭和五一年三月期を除く設立以後の各事業年度の建物勘定の金額と、原告が減価償却費として損金経理した金額との間に相関性がないから、原告が確定した決算において減価償却費として計上している金額を限度として、昭和五二年三月期にまでさかのぼつて、貸借対照表に計上すべき建物勘定の金額を算定すると、その内容は、別表3記載のとおりであり、原告の昭和五五年三月期における建物勘定の金額は、合計八二一三万九二八七円となる。

(5) 決算外の土地及び建物の金額

原告は、別表4の昭和五五年三月期分欄のとおり、土地及び建物を、合計一億一三二三万円で、札幌地方裁判所から競落によつて取得しているが、そのうちの六〇〇〇万円について貸借対照表に資産として計上したにとどまり、残りの五三二三万円については貸借対照表に計上しなかつたが、被告は、右計上もれ分の金額五三二三万円を昭和五五年三月期末の貸借対照表上の資産として計上した。

なお、原告は、前記において、次表に記載したとおり、不動産を取得していながら、これを前記の貸借対照表に資産として計上していなかつたが、被告は、右不動産の取得金額五七一万円も、昭和五五年三月期末の貸借対照表の資産として計上した。

〈省略〉

そうすると、原告の昭和五十五年三月期における決算外の土地及び建物の金額は、右の金額を合計した五八九四万円となる。

(6) 短期借入金勘定の金額

原告は、貸借対照表の短期借入金勘定に石山孝一からの短期借入金五七二万円を計上しているが、このほか原告は、原告の関連会社であり、石山孝一が代表取締役に就任しているロック建設から昭和五三年九月二六日、五〇〇万円を借入しており、昭和五五年三月期末までにこれをロック建設に返済していないから、原告の昭和五五年三月期における短期借入金は、合計一〇七二万円となる。

(7) 預り敷金

原告は、昭和五四年七月三一日に、札幌市中央区北七条西二七丁目二二番地二ほか二筆の土地及び当該土地の上に所在する五階建事務所用建物を、札幌地方裁判所の競売により取得したことに伴い、当該土地及び建物の前所有者で、原告が取得する以前から当該建物に入居しており、引き続き入居することになつた浅倉工業から同年九月に敷金として一八〇万円を受領しており(右事実は当事者間に争いがない。)被告は、同金額を、昭和五五年三月期末の貸借対照表の負債の部に預り敷金として計上した。

(8) 以上の(1)から(7)の勘定科目以外の勘定科目については、別表2記載のとおり、原告の確定申告における貸借対照表に記載された金額と同一である(右事実は当事者間に争いがない。)。

(9) 以上によれば、原告の昭和五五年三月期における所得の金額は、五四八〇万三三四五円となる。

(四)  右推計の合理性について検討する。

(1) 以上の推計方法は、原告が被告に提出した確定申告書に添付されていた貸借対照表をもとに、原告の当期の期首及び期末の純資産の額を調査し、資本の増減の額を加・減算して所得金額を算出したもので、被告が原告の財産の増減状況を把握するに当たり、銀行・裁判所等の信用性ある機関により作成された客観的な資料に依拠し、また、原告の計算の誤りを会計学上の等式に従つて修正したもので被告のし意が介在する余地はないのであるから、推計の基礎事実は正確に把握されているものであり、帳簿書類等の存在しない本件にあつては、真実の所得に近似した数字が算出されるような客観性を備えているものといえる。

(2) 原告は、被告が原告の昭和昭和五五年三月期の事業所得の金額の推計に当たり、計上すべき負債を計上していないから、被告による推計は到底合理性を備えているとはいえないと主張する。

まず、原告が計上すべきと主張する、太陽神戸銀行から昭和五四年一〇月一八日借り入れた五〇〇〇万円の借入金については、前出乙第七号証によれば、被告としても原告の昭和五五年三月期の事業所得の金額の推計に当たり、右借入金の残額四七九〇万円を長期借入金に含めて計上していることが認められているから、この借入金に関する原告の主張には理由がない。

次に、原告が計上すべきと主張する、太陽神戸銀行から同年七月二日借り入れた三〇〇〇万円の借入金については、成立に争いのない乙第一九号証の一、二(乙第一九号証の二については、原本の存在を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、原告が太陽神戸銀行から同日三〇〇〇万円借り入れ、かつ、右借入金を同五五年三月三一日までに全額弁済していることも認めることができるから、右借入金に関する原告の主張にも理由がない。

さらに、原告は、昭和五四年七月三一日に取得した別表8の番号3記載の土地・建物の代金支払いの際に石山孝一から二五二〇万円を借り入れ、昭和五五年三月二六日に取得した別表8の番号5記載の土地の代金支払の際に石山孝一から八八一万円を借り入れたと主張し、原告代表者は、その本人尋問において右主張にそう供述をするが、成立に争いのない甲第四、第五、第八号証によれば、石山孝一がその名義の通知預金二七〇〇万八八七六円を同五四年八月一五日解約したこと、石山孝一が菊池善策にその所有する不動産を代金三二〇〇万円で売却したこと、石山孝一の日本長期信用銀行札幌支店に対する同年一二月二七日満期日のワリチョーが三七一万円であることを認めることができるが、右各事実と原告の主張する石山孝一からの借入れは直ちに結びつくものではなく、原告代表者本人尋問の結果を採用することはできず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

(3) 原告は、別表8の番号3の宅地・建物について、芳村商事株式会社が賃借人として原告に裁判上一五〇〇万円を請求し、この紛争は解決していないから、右一五〇〇万円は右宅地・建物に係る負債として、右宅地・建物の価額から減額すべきものであると主張する。

しかしながら、原告の主張によつても、右の一五〇〇万円についてはいまだ係争中で債務として確定していないから、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従い(法二二条四項)、権利確定主義の原則によれば、昭和五五年三月期において負債として計上できないものというべきである。したがつて、原告の主張するように、右の宅地・建物の取得価額から一五〇〇万円を差し引いて資産の部に計上することも到底許されないというべきである。

2  原告の昭和五五年三月期の課税土地譲渡利益金額

(一)  原告が別表5記載の本件不動産を同表取得年月日欄記載の日に、同表取得金額欄記載の金額で、札幌地方裁判所から競落によつて取得した後、同表売却年月日欄記載の日に、同表売却金額欄記載の金額で、同表売却先欄記載の相手方に売却していること、原告が、本件不動産のうちの各土地部分を取得したのは、いずれも昭和四四年一月一日以後であることは、当事者間に争いがない。したがつて、右土地部分の譲渡利益金額の合計額の二〇パーセントに当たる金額が法人税の額に加算されることになる(措置法六三条一項一号)。

証人清野敏嗣の証言並びに弁論の全趣旨によれば、被告は右加算金額の基礎となる課税土地譲渡利益金額を算出する前提として、本件不動産のうちの各土地部分及び各建物部分の取得金額及び売却金額を推計の方法により確定したことを認めることができる。

(二)  推計の必要性についてみると、原告においては、土地あるいは建物ごとの各金額を記入した帳簿・書類等が作成されていなかつたことは、当事者間に争いがない。そして、証人清野敏嗣の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告には、右各土地部分及び建物部分の各金額を実額によつて把握しうる資料もなかつたことが認められる。

右事実によれば、被告は、本件不動産のうちに各土地部分及び各建物部分の各金額を推計により算出せざるを得なかつたものということができる。

(三)  被告は、右各土地部分の各金額を推計により算出するに当たり、右各土地部分の近傍類似の土地(別表6の1の参考欄記載の基準地)の地価公示価格を基準として、札幌地方裁判所が本件不動産を競売するに際して依頼した不動産鑑定士による本件不動産を取得した時点及び譲渡した時点の各時価の変動率を時点修正して各土地部分の各金額を求め、また、各建物部分については、再調達原価を基に未償却残高を求め、評価時点におけるそれぞれの時価を算定し(なお、本件不動産のうちの各土地部分及び建物部分の評価額の取得時点及び譲渡時点における時点修正率の評定は、別表6の2ないし同6の5のとおりであり、右各時点における各土地部分及び各建物部分の時価による価額構成は、別表7の各時点における土地建物の価額構成欄のとおりである。)、右各土地部分の取得時点及び譲渡時点における時価評価額が、各建物部分の各時点における時価評価額が、各建物部分の各時点における時価評価額を含めた合計金額に占める割合を求め、これに、原告が本件不動産を取得し、また、譲渡した際の実際の金額を乗じることによつて、右実際の金額の中に本件土地部分の価格が占める割合を求めたことを弁論の全趣旨により認めることができる。そして、右算定方法の基礎として採用した計数は、いずれも、成立に争いのない乙第八号証の一ないし七、第九号証の一ないし七、第一〇ないし第一四号証、第一五号証の一、二(乙第八号証の六、七、第九号証の六、七については、原本の存在を含む。)により認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、本件不動産の各土地部分の取得価格及び譲渡価格を別表7の〈1〉及び〈2〉欄のとおり算出することができる。

本件不動産のうちの各土地部分の課税土地譲渡利益金額は、右の各譲渡価格から各原価の額及び各土地部分を譲渡するために直接又は間接に要した費用、すなわち、法定の負債利子の額と法定の販売費及び一般管理費の額を控除することによつて算出されるから、本件不動産のうちの各土地部分の課税土地譲渡利益金額は、別表7の〈3〉及び〈4〉欄のとおり、それぞれ、二二八万六〇六一円及び四八四万五七七〇円となる。したがつて、その合計金額七一三万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満の端数は切り捨て)に対する二〇パーセントの金額である一四二万六二〇〇円が法人税額に加算されることとなる。

課税土地譲渡利益金額を算出するに当たり、控除しうる経費は、法定の負債利子の額と当該土地譲渡のために要した販売費及び一般管理費の額に限定されている(概算法、措置法六三条二項、同法施行令三八条の四第六項)が、法人が経費の額につき、当該事業年度においてした土地の譲渡の全てについて支出するこれらの経費の額のうち当該土地の譲渡にかかる部分の金額を合理的に計算し、かつ、これを法人税申告書に記載した場合には、右の金額(実績値)を経費として控除することが認められている(実額配賦法。同法施行令三八条の四第八項)。しかしながら、前出乙第一号証によれば、原告は、昭和五五年三月期の確定申告書に、原告が主張している実績値を全く記載していないから、実額経費を主張することはできない。

3  課税留保所得金額

前記のように、原告の昭和五五年三月期における所得金額は、五四八〇万三三四五円であるから、その全額が原告の留保所得金額となり、これに法六七条の規定を適用して課税留保金額を計算すると、同条一項に定める留保金額は、同条二項に定めるところにより、留保した所得金額五四八〇万三三四五円から、法人税額二二五〇万七四〇〇円及び道府県民税額等四六五万九〇三一円を控除した二七六三万六九一四円となり、さらに、同条三項により、留保控除額、すなわち、当該事業年度の所得等の金額の一〇〇分の三五に相当する金額(五四八〇万三三四五円×三五パーセント=一九一八万一一七〇円)を控除した八四五万五〇〇〇円となる。

4  更正の適法性

(一)  原告が納付すべき税額は、以下のとおりとなる。

(1) 所得金額に対する税額 二一〇八万一二〇〇円

昭和五五年三月期の原告の所得金額である五四八〇万三〇〇〇円に対する税額は、法六六条二項(昭和五六年法律一二号による改正前のもの。)の規定により、右所得金額のうちの七〇〇万円については一〇〇分の二八の税率を、残額の四七八〇万三〇〇〇円については法六六条一項(右同)の規定により、一〇〇分の四〇の税率を、それぞれ乗じて計算すると、合計二一〇八万一二〇〇円となる。

(2) 課税土地譲渡利益金額に対する税額 一四二万六二〇〇円

原告の昭和五五年三月期に係る課税土地譲渡利益金である七一三万一〇〇〇円に対する税額は、措置法六三条の規定により、同金額に一〇〇分の二〇の割合を乗じて計算すると、一四二万六二〇〇円となる。

(3) 課税留保金額に対する税額 八四万五五〇〇円

原告の昭和五五年三月期に係る課税留保金額である八四五万五〇〇〇円に対する税額は、法六七条一項の規定により、同金額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算すると、八四万五五〇〇円となる。

(4) 以上の(1)ないし(3)の金額を合計すると、原告の昭和五五年三月期に納付すべき法人税額は、二三三五万二九〇〇円となる。

(二)  以上の結果、原告の昭和五五年三月期の所得金額、課税土地譲渡利益金額、課税留保金額及び納付すべき税額は、別表1の番号7「審査裁決」欄下段の括弧書きのとおり、国税不服審判所が裁決した金額と一致し、昭和五五年三月期に係る納付すべき税額は、被告の再更正処分に係る納付すべき税額を超えるから、本件更正は適法である。

5  賦課決定の適法性

(一)  前記認定事実によれば、原告は、昭和五五年三月期の法人税の確定申告に際し、所得金額、課税土地譲渡利益金額、課税留保金額及び納付すべき税額につき、過少申告をしたことになる。

(二)  そこで、重加算税の賦課の対象となる事実について検討する。

(1) 被告は、原告が昭和五五年三月期の確定申告に際し、その所得金額のうち、その発生起因が明確な不動産譲渡利益金額一五八九万円及び家賃収入のうち八九万四〇〇〇円(別表5の差引譲渡益の合計欄及び別表5の付表)の合計一六七八万四〇〇〇円を損益計算書に計上しなかつたが、この行為は、通則法六八条一項に規定する「隠ぺい」に該当すると主張する。

(イ) まず、前記のように、原告が昭和五五年三月期において、別表5記載の各不動産を同表記載の取得金額及び売却金額で売買していることは、当事者間に争いがない。したがつて、原告は、その差引譲渡益一五八九万円を昭和五五年三月期の損益計算書に計上すべきこととなる。

そして、右争いのない事実並びに前出乙第一号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は右利益金額の存在を認識しつつこれを損益計算書に計上せず、その結果、所得金額を過少に申告したことを認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

したがつて、原告が昭和五五年三月期の確定申告において右利益金額一五八九万円を計上しなかつたのは、通則法六八条一項の「隠ぺい」に該当するということができる。

(ロ) 次に、前記認定事実並びに前出乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従い(法二二条四項)、発生主義・権利確定主義により原告の家賃収入をみると、原告は、昭和五五年三月期において、〈1〉別表5の付表記載の番号1の木造共同住宅を南雅洋、猪狩弥末広、酒井秀樹、石橋勝憲、成田克雄、西村雅之、小田文子、山岸秀夫、福岡与四郎、高橋敏雄、今川泰玉らに賃貸し(ただし、右の者の中には、中途入退居者もいるものと思われる。)賃料1か月当たり二〇万円、合計二四〇万円の収入をあげ、〈2〉別表5の付表記載の番号2の木造二階建て店舗を佐藤ふう子に賃料一か月当たり三万八〇〇〇円で賃貸し、合計四五万六〇〇〇円の収入をあげ、〈3〉別表5の付表記載の番号3の浅倉ビルを昭和五四年八月から浅倉工業に賃料一か月当たり九〇万円で賃貸し、合計七二〇万円の収入を上げ、〈4〉別表5の付表記載の番号4のマンションカルチェド札幌四一二号室を北海道消火設備株式会社に賃料一か月当たり五万五〇〇〇円で賃貸し、合計六六万円の収入をあげ、年間を通じ一〇七一万六〇〇〇円の賃貸収入を得ており、右賃貸収入の存在を認識していたこと、そして、原告は、右の賃貸収入のうち、九八二万二〇〇〇円のみを損益計算書に計上したのみで、残余の八九万四〇〇〇円を損益計算書に計上していないことを認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

したがつて、原告が昭和五五年三月期の確定申告において右八九万四〇〇〇円を計上しなかつたのは、通則法六八条一項の「隠ぺい」に該当する。

(三)  以上の事実をもとに、昭和五九年法律第五号による改正前の通則法六八条一項、六五条一項、一一八条三項、一一九条四項を適用して算定すると(なお、過少申告加算税の基礎となるべき税額は、原告が本件更正に基づき納付すべき二〇五四万〇四〇〇円であり、このうち、隠ぺい又は仮装されていない事実に基づく額は一四九三万五三〇〇円である。)、重加算税は一六八万一五〇〇円、過少申告加算税は七四万六七〇〇円、合計二四二万八二〇〇円の限度で適法であり、この金額を超える部分は違法である。

三  以上によれば、原告の請求は、本件賦課決定のうち二四二万八二〇〇円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるから本件賦課決定をこの限度で取り消し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 宮森輝雄 裁判官 冨田一彦)

別表1

課税の経過

〈省略〉

別表2

貸借対照表の修正表

〈省略〉

別表3

各事業年度末における建物の価額計算表

〈省略〉

別表4

事業年度末の貸借対照表に計上もれの土地・建物

〈省略〉

別表5

競落により取得した不動産のうち期中売却済の内訳表

〈省略〉

※土地譲渡利益金に対する税額 11,035,000円×20%=2,207,000円(千円未満端数切り捨て)

別表5の付表

昭和55年3月期家賃収入の内訳

〈省略〉

※家賃計上もれ額(期中の家賃収入-期中の家賃計上額)=10,716,000-9,822,000=894,000円

別表 6の1

土地評価額の時点修正計算書

〈省略〉

別表 6の2

土地評価額の時点修正率の評定 (1)

〈省略〉

別表 6の3

土地評価額の時点修正率の評定 (2)

○ 時点修正の期間(昭52.11.22~昭54.12.21)

○ 地価公示価格の変動率の推移

札幌市企画調整局計画部編「地価公示要覧」

〈省略〉

○ 付近の基準地及び公示地を基に次のとおり時点修正率を評定

1 昭52.11.22~昭54.5.15 8.5%(別表6の2)

2 昭54.5.15~昭54.12.21 10.7%×7/12=6.2%

3 上記1及び2を基に昭和52年11月22日現在を100%とした時点修正率は次のとおり

108.5%×106.2%÷100%=115.2%

○ 時点修正の期間(昭53.3.2~昭54.8.15)

○ 付近の基準地を基に次のとおり時点修正率を評定

1 昭53.3.2~昭54.6.12 6.6%(別表6の2)

2 昭54.6.12~昭54.7.1 (7.6%+4.2%)÷2×1/12=0.5%

3 昭54.7.1~昭54.8.15(14.5%+1.9%)÷2×2/12=1.4%

4 上記1~3を基に昭和53年3月2日現在を100%とした時点修正率は次のとおり

106.6%×100.5%×101.4%÷10,000%=108.6%

別表 6の4

建物評価額の時点修正計算書

〈省略〉

別表 6の5

建物再調達原価算定のための工事費の増加率計算書

○ 物件~札幌市西区発寒1,141番79

木造亜鉛メッキ鋼板茸2階建居宅 108.13m2

○ 取得日 昭54.5.15 ○ 譲渡日 昭54.12.21

○ 裁判所依頼の鑑定評価額

鑑定評価 昭52.11.22 5,490,000円(外地上権相当額2,400,000円)

○ 各時点における北海道の木造建築工事費の増加率

建設省計画局調査統計課編「建設統計月報」

〈省略〉

○ 建物新築年月日 居宅 108.13m2  昭48.9.10

車庫 14.58m2  昭49.8.10

事務所 19.44m2  昭49.8.10

○ 物件~札幌市西区発寒10条2丁目818番5の2

鉄骨造陸屋根5階建事務所、倉庫、寄宿舎960.1m2

○ 取得日 昭54.6.12 ○ 譲渡日 昭54.8.15

○ 裁判所依頼の鑑定評価額

鑑定評価 昭53.3.2 48,350,000円(外地上権相当額6,075,000円)

○ 各時点における北海道の鉄骨鉄筋コンクリート造建築工事費の増加率建設省計画局調査統計課編「建設統計月報」

〈省略〉

○ 建物新築年月日 昭48.9.20

別表7

土地の譲渡にかかる課税土地譲渡利益金額の計算書

〈省略〉

別表8

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例